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イタリアオペラ翻訳家 とよしま 洋 のブログです。


by aula magna
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アンデルセンの「Improvisatoren(1835):即興詩人」と森鴎外

イタリアを旅し、魅了されたアンデルセンは、イタリア語が分からなかったため、
イタリア人の思考、感情などを、自分自身の全感覚を使って想像し、イタリアを
舞台にした美しい夢物語「即興詩人」をデンマーク語で書き上げました。
留学中、その作品をドイツ語訳で読んだ森鴎外は、全く未知の国であるイタリアを、
ドイツ語の記述からのみ想像し翻訳しました。
鴎外訳の「即興詩人」には原作者アンデルセンは不在で、それは翻訳であるよりも
原作の再編集であり、創造的な誤訳でした。
そこには、西洋文化の紹介というよりも、日本の風土に翻訳する「文化の翻訳」、
すなわち西洋文化の「日本化」が行われたのです。
こうして鴎外は9年という歳月をかけ、日本人に理解し易い日本人好みの「イタリア」
を作り上げ、歴史に残る文学作品として「即興詩人」を残したのです。
岩波文庫では、「即興詩人:森鴎外訳」と表記した上で、翻訳作品に付ける赤色の
帯ではなく、日本近代文学につける緑色の帯をつけています。卓見というべきでしょう。
         (長島要一氏の「即興詩人とイタリア」から引用要約)

鴎外訳 『即興詩人』書き出し:
羅馬(ロオマ)に往きしことある人はピアツツア・バルベリイニを知りたるべし。
こは貝殻持てるトリイトンの神の像に造り做したる、美しき噴井ある、大なる
廣こうぢの名なり。貝殻よりは水湧き出でてその高さ數尺に及べり。

ダンテの『神曲』というタイトルは、原題(Divina Commedia)の訳「神聖喜劇」を、
鴎外が『即興詩人』の一章で「神曲、吾友なる貴公子」と訳し、以来定着したものです。
解りやすさを考えると「神聖喜劇」を直訳と言い切って良いのか難しいところです。

これだけ自由に行き来のできる時代になっても、外国と日本文化の間には大きな
隔たりがあります。そのため、文化の翻訳をしないと翻訳となりにくい状況にも
遭遇しますが、翻訳はあくまでも文化の紹介が役割と考え、どこまで日本語にできるか
という大きなテーマを抱えつつ、この仕事に携わっています。
by aula-magna | 2014-03-27 15:12 | ・イタリアのこと | Trackback | Comments(0)