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イタリアオペラ翻訳家 とよしま 洋 のブログです。


by aula magna
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「エルナーニ」を訳し直して思うこと。

日本では芸術は、政治や社会とは直接結びつかない世界で展開される純粋な営みと捉えられる傾向が強く、人々の生活に大きくかかわることのない、むしろそこまで必要とされていないとさえ思える感があります。
それは日本が平和であったことと深い関係があるのではないでしょうか?震災で日本が大きな打撃を受け、復興へ向けて皆で力を合わせようと心が一つになった今、まず必要とされるのは、文学、演劇、音楽、絵画、彫刻などの芸術、そしてスポーツ等も合わせた文化的力であり、これらは生きるうえでの大きな助けとなるはずです。

私は今回オペラ対訳双書の改訂版としてヴェルディ作曲の「エルナーニ」を25年ぶりに訳し直しました。そこで改めて強く感じたのは、ヨーロッパでは、芸術、中でも特に文学的闘争と政治的闘争が強く結びついていたということです。当時の識字率が人口の7分の2程度であったため、演劇やオペラが特に国民的な広がりを持って民衆に受け入れられ、社会的影響も強かったということも見逃せないのですが。
ボーマルシェの「フィガロの結婚」(初演1784年)は、フランスの旧体制に向けられた風刺演劇であり、社会の不平等に我慢しきれなくなっていた民衆に熱狂的に迎えられ、フランス革命(1789年)に拍車をかけました。また、17世紀以来の古典主義に対して、新しいロマン主義の時代が訪れる転機となったのはヴィクトル・ユゴーの「エルナニ」(初演1830年)で、このロマン主義によって「自我の開放」が叫ばれ、個性、独創性が尊重されるようになりました。そしてデュマ・フィスの「椿姫」(初演1852年)は現実的な社会が力強く描かれ、社会問題を取り扱った近代劇の先駆となったのです。
この3作品は、いずれもオペラ化され、現在では演劇よりもオペラとしての方がよく知られており、今でもなお観客の心に深く入り込み、勇気づけ楽しませてくれる色あせることのない作品です。

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by aula-magna | 2011-05-05 00:48 | ・イタリアオペラの話 | Trackback | Comments(0)